『水道事業に経営の目線を』
こんにちは。平木だいさくです。
本日明け方、終盤国会の激しい攻防に決着がつきました。
午前4時過ぎには、昨日午前から断続的に開催された参議院本会議で、15本の法案を無事に可決・成立。残すは週明け10日の閉会手続きのみとなりました。
これはこれで、色々とお話ししたいこともありますが…。
本日取り上げるのは、今国会で注目となった法案の1つ。水道法改正案です。
最近、私のところにも「水道の民営化に賛成ですか?反対ですか?」といった問い合わせが多く寄せられるようになりました。
まず結論から申し上げましょう。
今回の水道法で取り組むのは、水道の『民営化』ではありません。
また、「民営化で水道料金が上がる」「水質が悪化する」といった言説は、よくある論点のすり替えに他なりません。
以下、具体的に説明したいと思います。
蛇口をひねれば、いつでも、どこでも、美味しくてきれいな水を飲むことができる。この日本の誇るべき水道事業が、岐路に立たされています。
第一の問題は老朽化の進行。
高度経済成長期に整備された施設の多くが、更新時期を迎えています。
法定耐用年数を超えた水道管の割合は約15%。現在でも年間2万件を超える漏水・破損事故が発生していますが、今のペースでは、全ての更新が終わるのにあと130年かかるとの試算も出されています。
第二の問題は耐震化の遅れ。
水道管の耐震適合率は、実に4割未満という低さです。
耐震化の取り組みは、阪神淡路大震災を契機に本格化したこともあり、比較的新しい管路でも十分な耐震性能がない場合があるのが悩みどころです。
記憶に新しいところでは、大阪府北部地震の際、道路から水が噴き出し、広域で断水が発生しました。大規模災害時には、この断水が更に長期化するリスクもあることから、早急な対策が必要です。
ここまで述べてくれば、今やるべき事が何かは明らかです。
水の安定供給を維持していくためにも、長期的な視点に立って、必要な水道管の修繕・更新を着実に進めていく以外にありません。
ところが、そんな当たり前のことが出来ていないのです。
水道事業では、施設の適切な運営の基礎として、最低限、どんな水道管(口径、耐震性能など)を、いつ、どこに敷設したのか把握しておく必要があります。
この情報が記載されたものを『水道施設台帳』と呼ぶのですが、水道事業者の実に4割が「もっていない」と答えています。
加えて、およそ3分の1の事業者において、供給単価が原価割れ、つまり赤字となっている上に、水道管の更新費用を水道料金にきちんと織り込んでいない事業者が多いこともわかってきました。
つまり、水道事業における最大の課題は、“なすべきことをきちんとなす”という経営(マネジメント)の欠如に他なりません。
今回の法改正では、今後も安全な水の安定供給体制を維持するために、1)やるべき事を法律で定め、2)責任の所在を明確にし、そして3)事業運営の選択肢を増やしました。
具体的には、1)で『台帳』の整備や施設の維持・補修の義務化を法律に明記。
2)では、水道事業の広域的な連携の推進を都道府県の責務と位置づけたのが重要です。
市町村を基礎的な単位としてきたことから、上水道事業体は全国に1,355も存在し、そのうち約7割は給水人口5万人に満たない小規模な事業者が占めています。
人口が減少し、水の需要も減少が見通される中で、経営面でのスケールメリットを享受できる広域連携は、間違いなく今後の大きな流れになります。
しかし、事業者同士の話し合いに任せると、どうしても利害が先に立ち、なかなか連携が進みません。
そこで、大局的な判断が可能な都道府県が、事業基盤の強化と併せて、広域連携に積極的なリード役を果たすよう盛り込んだのです。
最後の3)は、民間事業者も水道事業の運営を担うことができる、コンセッション方式の導入です。
冒頭にふれた、通称『民営化』のことですが、実は民間事業者が水道事業を運営すること自体はこれまでも認められてきました。
但し、その場合は地方公共団体が水道事業の認可を返上した上で、民間事業者が新たに認可を受ける必要があり、災害時の対応等で問題が多いとされてきました。
そこで本改正では、市町村に認可を残し、不測の事態が発生した時に責任を負えるようにしたままで、運営権のみ民間事業者に設定できるようになりました。
もちろん、これは事業運営における選択肢の1つであり、仮にコンセッション方式を採用する場合、料金も含めて自治体が条例で枠組みを定め、国の審査を通す必要があります。
繰り返しになりますが、課題は“なすべきことをきちんと”できていないということであり、事業主体が自治体なのか、民間事業者なのかという点は本質的な問題ではありません。
海外において『民営化』に失敗したとされる事案においても、求められる管理運営のレベルや料金設定の仕方に問題があったと考えられており、それをもって今回の法改正を批判するのは無理があります。
1)やるべき事を法律で定め、2)責任の所在を明確にした、今回の法改正は、公的関与を強化し、将来の水道供給を安全で確かなものとするための、大切な取り組みなのです。