都市農業を守るには
農地保全へ新法必要
生産緑地制度も改善すべき
農的社会デザイン研究所 蔦谷栄一代表の講演から(要旨)
農的社会デザイン研究所の蔦谷栄一代表(農林中金総合研究所客員研究員)が、公明党の会合で行った都市農業に関する講演の要旨を紹介する。
◇ ◇ ◇
都市農業では、野菜や果樹など、高度な技術を集約した付加価値の高い農業が営まれている。狭い農地とはいえ、都市農家のほとんどは自力で経営を維持しながら消費者に密接に関わり、鮮度の高い食料を供給している。
都市農業は、産業として農産物を供給するという側面以外にも幾つもの重要な役割を担っている。都市農地は、ヒートアイランド現象の緩和をはじめ、防災空間や安らぎの空間の役割など多面的機能を発揮している。さらに、土地、自然、環境という土台の上に、農業や食を通じて生産者と消費者のコミュニティー(共同体)を形成する点で、TPP(環太平洋連携協定)に象徴されるグローバル化への対抗軸となり得る先駆け的存在だ。都市農業は自然と人間、生産者と消費者、地域住民同士などの多様な関係性を結び、「経済重視」から「生命重視」の社会へ転換する“社会デザイン能力”を持つことを強調したい。
ただ、都市農業の振興をめざす上で課題は多い。例えば、東京や大阪、愛知など3大都市圏の特定市にある生産緑地 だ。大都市圏では地方に比べ相続税が格段に重いが、生産緑地に指定されると納税猶予が適用されるので、農地保全に一定の役割を果たしてきたことは確かだ。
一方、納税を猶予された農家には終身営農が義務付けられ、生産緑地を貸し出すこともできないなど、円滑な農業継承を困難にする要因にもなっている。生産緑地はあくまでも一定期間の農地保全を前提にしたものであり、持続的な保全には限界がある。見直しが必要だ。
まず、都市農地の必要性を国民全体で共有し、都市農業を振興するための法律の制定が重要になる。さらに、相続税や固定資産税の負担軽減などを含め、都市農地の保全と都市農業の振興とをワンセットにして、農地を持続的、計画的に維持・保全していくことを考えなければならない。
【生産緑地】生産緑地法に基づき、市町村が指定する市街化区域内にある農地や森林。一団の農地で500平方メートル以上の規模があり、公共施設の敷地に適していることなどが指定要件。
(2014/10/13付公明新聞)