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2020.3.12

『東日本大震災から9年——「人間の復興」へ向けて(下)』

まとめ
▼公明案を丸ごと反映した「復興庁」「復興特区」が設置され、高い評価が寄せられた
▼次の10年は、なりわいの再生が重要。新たな産業拠点をつくるなど地域経済再生に全力
▼被災者に希望の光が差す『人間の復興』をめざし、今国会で復興庁設置10年延長を期す

「東日本大震災から9年——『人間の復興』へ向けて(上)」から続く

 

4、被災地への思いをカタチに

暮らしの再建を後押ししながら、復興に向けた中長期のビジョンを示すことも、政治に課せられた重要な役割です。

2011年5月19日、公明党は復興に向けた基本理念や組織体制などを定める『復興基本法案』の骨子を発表しました。

その内容は、基本理念として、前述した『人間の復興』を前面に打ち出し、3本柱の具体策を提示するものでした。

①省庁の縦割りを廃し、一元的な復興の司令塔としての復興庁と復興担当大臣ポストを創設する。

②従来の国債と別勘定にした復興債を発行し、必要な財源を確実に確保する。

③地域の自主性をいかした復興を後押しする「復興特区」の創設。

今なお続く、復興の基本的枠組みを示すものでした。

一方で、同時期に民主党政権が提出した基本法案は、2カ月かけて作ったにもかかわらず、阪神・淡路大震災復興基本法の焼き直しに等しい、お粗末な内容でした。

結局、独自案を示した自民党を加えて、民主、自民、公明の3党による修正協議が行われ、発災から102日目となる6月20日、東日本大震災復興基本法が成立します。

復興庁や復興特区については、

公明党の「アイディアを丸のみしたもの」(11年6月20日付 産経新聞)と評されたように、公明党の提案をほぼそのまま入れるかたちで、復興の青写真が示されることになりました。

こうした動きについて、政府の復興構想会議の五百旗頭(いおきべ)真議長が新聞のコラムで

「幸いなのは、公明党のように被災者への思い入れの深い野党が存在したこと」(11年11月27日付 毎日新聞)

と評していただきました。

 

5、次の10年へ、なりわいの再生を

復興に向けた“次の10年”で問われるのは、なりわい(生業)――すなわち、生計を立てていくための仕事の再生です。

働く場所があるかどうかは、今被災地に住む方のみならず、故郷への帰還や転入を考える人たちにとっても極めて重要だからです。

その意味で、この春は、被災地に再び人が集い、賑わいとなりわいを創造していく上で重要なイベントが予定されています。

まずは今月14日、JR常磐線が9年ぶりに全線開通します。不通区間となっていた駅周辺の避難指示も解除されることとなっており、地元が待ちわびた、交通インフラと街の再生が音を立てて動き出します。

また、今月末には、世界最大級の“ロボット実証拠点”となる、『福島ロボットテストフィールド』がフルオープンとなります。

既に一部施設が稼働し、多くの企業に活用されてきましたが、風洞実験棟、屋内水槽、試験用橋梁なども加わり、デンソーや会津大学など16事業者が災害対応や水中探査に使用するロボット、ドローンや「空飛ぶ車」(有人垂直離着陸型飛行機)、EV(電気自動車)など次世代に向けた研究・開発を行う一大拠点が完成します。

この『福島ロボットテストフィールド』は、経済産業副大臣として現地に足を運び続けた、公明党の赤羽一嘉衆議院議員(現国土交通大臣)の発案によるもの。

赤羽議員は、浜通り地域に新たな産業を構築する国家プロジェクト『福島イノベーション・コースト構想』を提唱し、その中核にすえたのがロボット産業の振興でした。

人類未踏の挑戦となる福島第一原発の廃炉にも、放射線量が高く、人の立ち入りが困難な空間を調査できるロボットの活用が不可欠です。

本構想で特に注力するのが、地元中小企業の参画です。いくら資金を投じて、日本中、世界中から研究者や技術者、大企業を呼び込んだとしても、地域雇用が増えなければ復興につながりません。

地域で技術を磨いてきた企業の再生と発展に資するよう、ロボットテストフィールドに集う企業や研究所と、地元企業とのビジネス機会創出を目指す取り組みも活発に行われています。

こうした地域との協働の基盤をつくってきたのが、福島第一原発事故で避難指示が出た、県内12市町村の事業者を支援する『福島相双(そうそう)復興官民合同チーム』の活動です。

“相双”とは相馬市や双葉町など福島県東部に位置する太平洋沿岸の地域を指します。

事業者や農家を一軒一軒訪問し、相談に乗るという、およそ“お役所仕事”とは対極にありそうな施策を主導したのは、赤羽副大臣の後任となった高木陽介衆議院議員でした。

この『官民合同チーム』は、これまでに被災した約5300の商工業者と約1900の農業者を訪問し、事業再開や自立を後押しするなど、従来の支援の枠組みを超えた取り組みには、地元からも厚い信頼の声が寄せられています。

 

6、人と人がつむぐ『人間の復興』

こうした様々な努力によって築かれた土台のうえで、筆者も2017年から翌18年までの424日間、復興大臣政務官として働かせて頂きました。

原発事故による被害が厳しかった浜通り地域の産業振興策などに取り組みましたが、その中で目の当たりにしたのは、織田裕二さん主演の映画「県庁の星」で描かれたような官僚の皆さんの変化です。

この振興策をめぐって「この案で本当に被災地の皆さんに喜んでいただけるだろうか」と判断に迷った時のこと。

担当の若手官僚に意見を求めると、「これで大丈夫です」の確信の一言。理由をたずねると、前述の『官民合同チーム』に同行し、何件もの被災した工場や農家を訪ね歩き、良い感触を得ているとのことでした。

普段、霞ヶ関で机に向かっている彼らの姿からは、到底期待できなかった現場主義が根付き始めていることに、手応えを感じました。

また、被災した自治体の役場には、今でも、霞が関の若手官僚が出向しています。

ある町で新設工場の開所式典に出席した時のこと。

同席した町長から、別れ際に1枚のメモを渡されました。後で開いてみると、間もなく任期が終える出向者の仕事ぶりを称えた上で、“任期の延長を検討してもらえないか”との内容。

若手官僚のみならず、彼を信頼し、活躍の場を与えてくださった町長をはじめとする地元の皆さんに感謝の思いで一杯になりました。

こうして、人と人の信頼によって国と地方のギアが噛み合い、復興へと動き出しています。

だからこそ、私は、なりわいの再生はこれからが本番であり、復興の歩みをここで止めるわけにはいかないと強く感じています。

現在行われている通常国会では、公明党が強く要請した、復興庁の設置を10年延長する復興庁設置法改正案など関連法案が提出されています。

関連法案には、福島の再生をさらに加速化させるため、福島への移住促進や交流人口拡大につながる事業を国が支援するほか、県内の農林水産業や観光業など風評被害による経済的な影響が大きい分野を対象に、法人税などの税制優遇が受けられる仕組みが盛り込まれています。

被災地の復興は、いよいよ次のステージを迎えるとともに、被災された方が抱える悩みや課題は、より一層、個別化、複雑化しています。

例えば、災害公営住宅一つとっても、「ご近所との交流がなく相談相手がいない」「資金がなく家賃の支払いが厳しい」など、様々な課題が指摘されています。

また、事業が再開できたとしても、売り上げはどうか。経済産業省が2019年6月、青森、岩手、宮城、福島の東北4県の被災企業約1万社を対象に行ったアンケート結果によると、売り上げが震災前の水準にまで回復した企業の割合は約半数にとどまっています。復興はまだまだこれからなのです。

公明党青年委員会は、伝統となりつつある「ユーストークミーティング」を通じて、今後、さらに被災地の未来を担われる青年の声を伺い、皆様とともに次の10年を切り拓いていく決意です。

そして、被災されたお一人おひとりの心に希望の光が差す『人間の復興』を目指し、公明党はこれからも力を尽くしてまいります。